「事業継続計画(BCP)」と「ビジネスプロセス・マネジメント(BPM)」A018

事業継続計画(BCP)はBusiness Continuity Planの日本語訳です。

内容は文字通り、災害やその他の重大事象(インシデントと言います)が発生し通常の事業を継続できない状況に陥ったときに、どのように事業を守り継続させるかについて事前に計画をたてておくことを指します。

このブログを読んでくださっている皆さんの会社のうち何社がBCPを策定し、訓練し、アップデートしているでしょうか?

 

東日本大震災やタイの大洪水、コロナ禍、そしてロシアのウクライナ侵攻など大変大きなインシデントからみずほ銀行のシステムトラブル等のインシデントまで、実にこの世の中はリスクがあちらこちらに転がっていて、いつ何が起きるか本当に不透明な時代になっています。

 

中小企業庁でも、中小企業向けにBCPの重要性を訴えるためガイドラインを作成し啓蒙に力を入れています。

 

中小企業BCP策定運用指針

https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/

 

指針では以下のような書き出しで始まっています。

1.はじめに

大地震、集中豪雨や洪水等の水害、新型インフルエンザ、テロ等の不測の事態に見舞われた状況で、あなたの会社は生き残ることができますか。従業員やその家族を守れますか。お客様からの信頼を維持できますか。

経営者であるあなたは、こうした緊急事態に遭っても、何とかして自社の製品・サービスを供給して会社を存続させたいと考えるはずです。しかし、いざ緊急事態という時に、あなたが普段と同じように判断し、的確な行動ができるでしょうか。

緊急事態で的確に判断し行動するためには、緊急時に行うべき行動や、緊急時に備えて平常時に行うべき行動をあらかじめ整理し取り決めておく「事業継続計画 (BCP)」の策定・運用が有効です。

また、BCPは、あなたにとって決して特別なものではありません。例えば、あなたが病気で入院したら会社をどのように続けていくか等、あなたが日々の経営の中で考えていることを、計画として「見える化」すれば、それが最高意思決定者不在という緊急時のBCPになるように、BCPは日々の経営の延長にあるものと考えられます。

 

中小企業庁も、「見える化」の重要性を指摘しています。更に以下のように続きます。

東日本大震災 (平成23311日発生)において、中小企業の多くが、貴重な人材を失ったり、設備を失ったことで、廃業に追い込まれました。また、被災の影響が少なかった企業においても、復旧が遅れ自社の製品・サービスが供給できず、その結果顧客が離れ、事業を縮小し従業員を解雇しなければならないケースも見受けられました。

このように緊急事態はいつ発生するかわかりません。BCPとは、こうした緊急事態への備えのことをいいます。

ただし、突発的な緊急事態がBCPの想定どおりに発生するはずもありません。また、BCPを策定していても、晋段行っていないことを緊急時に行うことは、実際には難しいものです。緊急事態において的確な決断を下すためには、あらかじめ対処の方策について検討を重ね、日頃から継続的に訓練しておくことが必要なのです。

BCPを策定する際は、最初から理想を追求し完全なものを目指しても、実現は困難な場合が多く、かえって導入を躊躇することにもなりかねません。そのため、まずは身の丈にあった実現可能なBCPを策定し、そして、それに改善を積み重ね、平常時から突発的な緊急事態への対応力を鍛えていくことが「中小企業BCP」の真髄であるといえます。

 

BCPは「身の丈」にあったものでよいこと、そして「改善を重ねる」ことが重要であると指摘しています。

このことは「ビジネスプロセス・マネジメント」とも通じるものです。

 

では、どのようにビジネスプロセス・マネジメントとBCPを推進したら良いか考えて行きましょう。

 

BCPの策定に際しては凡そ以下の手順で考えて行きます。

 

1.     どの事業をどこまで守るか、見定める
企業が災害に直面した時に、最優先で復旧しなければならない事業を見定めます。この事業を「中核事業」と呼びます。中核事業とは、まさに企業活動の中で、企業の屋台骨を背負っている事業のことで、「この製品やサービスを提供できなければ企業の存立事由を失うような事業」です。いくつかの製品やサービスを提供していた場合、「1つ」とは限らないかも知れません。

 

「重要業務」を洗い出し、リストアップする
次に、中核事業を支えている業務プロセスを洗い出してリストアップします。特定の部署や部門のことではありません。中核事業を支える業務プロセスを考えてみましょう。一口に「重要業務」と言っても、例えば以下のような業務プロセスから成り立っています。

1.     資材調達は「資材部」。製造は「製造部(工場)」、販売は「営業部」、売掛と買掛は「経理部」にまたがって業務は進められていますので、部署ごとに重要業務を定義します。しかし、この作業をゼロの状態から「思いつき」ベースで出来るでしょうか?そうです。BCPを検討する前にビジネスプロセス・マネジメントを考えないといけないのです。平素から、自社の業務をビジネスプロセス・マネジメントにより「見える化」しておかなければ、急にBCPをやることもできません。たとえできたとしても、いつ使うか分からないBCP策定のためだけの苦労に終わってしまいます。
重要業務の洗い出しが完了したら、次に「経営資源」洗い出しを行います。ビジネスプロセス・マネジメントが増々重要になります。


2.     「経営資源」を洗い出して、リストアップする
部署ごとの重要業務を特定したら、次のステップとして業務の遂行に必要な「経営資源」を同じように洗い出してリストアップします。
リストアップの対象は以下の4項目です。

-1-   ヒト:従業員(特に経験やスキルのある人)

-2-   モノ:原材料、設備・装置、運搬具、電話、FAX、パソコン、など

-3-   情報:重要なデータや紙の文書など

-4-   サービス:外注業者や銀行など

業務プロセスを見てみましょう。

重要業務の各プロセスは、さらに1レベル下のサブプロセスに細分化されます。その一つ一つについて経営資源を洗い出すのですが、勿論主要な経営資源を把握すれば良いのですが・・・とは言え、もう「思いつき」(例えば、アンケートなど)では抜け漏れが出てしまいます。

平素からビジネスプロセス・マネジメントを行い、上記のような「業務プロセス・モデル」を作成しておけば、作業は迅速かつ正確に行うことが出来ます。

全社共通的なもの、例えば・・建物、机・椅子、インフラ、ネットワークなどは総務部門やシステム部門などが一括してリストアップします。

1.     業務中断が企業に与える影響につきリスク調査を行う
経営資源のリストアップが完了したら、次にそれぞれの経営資源が「使用不能」に陥ったら、重要業務にどのような影響がでるか、ひいては企業全体にどのような影響が出るかを推定します。
影響度とは、被災し事業が停止した場合において企業として存続するために許された復旧までの時間です。
各、重要業務プロセスごとに「許容時間」を推定します。

l  目標復旧時間(RTORecovery Time Objective)とは
(出典:「あなたが作るやさしいBCP」昆正和著)

あるインターネットショッピング用のウェブサーバを考えてみましょう。このサーバが1日8時間稼働して100万円の売上を上げていたとします。もしサーバが停止すると、1時間当たり125,000円の損失を出します。
 5時間なら625,000円の損失。おまけにこの5時間の問に気の短いわがまま顧客は、プッツンして去ってしまうかも知れない。「さすがに5時間も止まってしまうとまずいよねえ」と営業部長と社長は目を見合わせてため息をつくわけです。 では、この5時間以内にネットショッピングの機能を回復するためにできることは何か。万一にそなえて同じサーバを2台確保して並行稼働させますか。なんとか手作業や人海戦術でカバーしますか。それとも知り合いの同業者に業務の一部を委託しますか。この5(時間)という数字はそういう意味なんです。言ってみれば、売上機会や顧客・取引先との関係の重大さが、あなたの会社に突き付けた時間的要請を表す数字といってもよいでしょう。

ここでは、BCPの詳しい説明を目的としている訳ではないので以下にリスク調査の手がかりにつき表にまとめました。

 

項目

ランク

資金

A:売上には全くまたはほとんど影響なし

B:支出≧売上にやや影響ありで、回復可能、資金繰り注意

C:支出>売上で大幅減またはなし、回復困難、資金繰り枯渇

コミットメント

A:品質、数量、納期には全くまたはほとんど影響がない

B:一部品質、数量、納期を満たせず、クレームの恐れあり

C:品質、数量、納期を守れず顧客に著しい損害が発生

信用

A:信用、信頼関係には全くまたはほとんど影響なし

B:一部の顧客離れ、取引先の信用低下発生

C:回復不能な顧客離れ、取引停止、契約解除。中核社員の離職など

(出典:「あなたが作るやさしいBCP」昆正和著から筆者が加工)

 

2.     重要業務の優先順位と復旧順序
影響度調査において、各重要業務プロセスの復旧までの許容時間を推定したら、その時間を業務プロセスに割り振ります。業務プロセスは「インプット⇒加工⇒アウトプット」の連鎖なので、Aが最重要だけど、Aを成立させるためにはBが使用できることが前提・・・と言ったことが起こります。そうした「因果関係」に配慮しながら、復旧手順のプロセスを策定し、出来ればモデル化(図に)します。

 

 

3.     「事業継続計画(BCP)」と「ビジネスプロセス・マネジメント(BPM)」のまとめ
これまで、「重要業務」と「経営資源」についてお話ししましたが、それぞれが「業務プロセス」の一部であることはご理解戴けたと思います。
業務プロセスは下記の図のような「インプット⇒プロセス⇒アウトプット」の連鎖構造になっています。

被災すると言うことは、この業務プロセスにおける何かの要素の一部、または全部が喪失・停止することを意味します。BCP策定に際しては、各企業の事情に応じたプランを策定する必要がありますが、「さぁ、BCP策定だ!」と張り切っても、自社内の業務プロセスが理解・共有されていないと必要十分なプランを策定することは困難です。

 

平素から、ビジネスプロセス・マネジメントを導入・実行して自社の業務がどのような構成となっていて、どのように運営されているかを是非認識して戴き、ビジネスプロセス・マネジメントをBCPのみならず業務改革や組織編制・人事配置等に活用して戴きたいと思います。